「健康寿命」を伸ばすにはまずはお口から!「健口寿命」のための歯科健診とは
こんにちは。
医療法人健誠会 増田歯科・矯正歯科 理事長の増田智基です。
最近、日本では今年2022年5月末に政府が公表した『経済財政運営と改革の基本指針2022』(骨太の方針2022)の原案に、「国民皆歯科健診の具体的な検討」という一文が盛り込まれたことが、6月頭にかけ大きな話題を呼びました。
そうなってしまったのは、一部メディアがやや曲解し、「全国民に毎年の歯科検診を義務付けるもの」として誤解が広まってしまったことが理由でした。
しかし、本来の趣旨は日本歯科医師会が6月8日に発表したとおり、口腔のチェックを推進していく、というものです。
日本歯科医師会は、これから必要なこととして「口腔と全身の健康との関係のエビデンスの精緻化」「歯科健診の重要性のさらなる理解」「健診の仕組みの検討」「データの標準化」など、依然として課題が多数あるとの認識を表しました。
それらに関して、それぞれ一つずつ取り組み、議論を重ねていくことが必須であり、今の時点ではすぐさま「義務化」という部分において議論すべき、というわけでは無いとされました。
参考:「経済財政運営と改革の基本方針 2022」への日本歯科医師会の見解
では、この歯科健診ですが、
歯科医院では一体どのようなことを行うのでしょうか?
増田歯科のある大阪府では、『妊産婦検診』、『後期高齢者検診』が患者負担無料で行われており、大阪市では『40歳・45歳・50歳・55歳・60歳・65歳・70歳』を対象とした歯周病検診が患者負担500円で執り行われています。
これらの検診では歯や歯茎の状態を歯科医師及び歯科衛生士が検査し、指導を行います。
具体的にどう検査するかというと、まずは専用の問診票を患者様に記入していただきます。
そして、歯科医師が歯の状態(虫歯の有無、治療されている歯の数、歯の無い場所の把握など)を記録し、歯科衛生士が歯と歯ぐきの隙間(歯周ポケット)の深さを検査し、歯周病の進行度合いを確認します(歯周検査)。
その後、患者様に歯の治療が必要である部位をお伝えし、問診票と歯周検査の結果から歯磨きや普段の食生活に関して指導を行います。
そうした検診を受けてもらうことで、虫歯の早期発見や歯周病の進行を抑制する、といったことが期待されます。
しかし、検診を受けただけでは虫歯や歯周病が治るわけではありません。
特に、歯周病は自覚症状に乏しく、初期症状として「歯ぐきから血がよく出るようになった」、「冷たいものや熱いものがしみるようになった」、などがありますが、非常に微妙な変化で気づきにくいものです。
歯がぐらつき始めてから初めて気づく場合も少なくありません。
実は、歯を失う原因で最も多いものがこの『歯周病』であり、なんとすべての要因のうち37.1%にあたります。
(虫歯は29.2%)
参考:第2回 永久歯の抜歯原因調査報告書 公益財団法人 8020推進財団
ではなぜ歯周病がこんなにも失う原因となってしまうのでしょうか。
まず、1つ目に挙げあられることが、先程から述べている通り、「自覚症状に乏しい」という部分にあります。
虫歯のように痛みや熱いもの冷たいものがしみる、といった感覚による症状も殆どなく、見た目の変化も非常に緩やかであるため、自分で気づくには非常に難しい病気です。
2つ目に、「普段の歯の手入れだけでは防ぎづらい」、というものが挙げられます。
歯周病を進行させる主な原因は口の中にある食べ残し『歯垢(プラーク)』と唾液に含まれるカルシウム成分などが結合してできた、『歯石』にあります。
この『歯石』は主に歯の根元に蓄積し、歯周病の原因菌の住処となります。
『歯石』は非常に頑丈であり、歯ブラシで除去することはとても現実的ではありません。
一応、市販で歯石除去のホームケアグッズなども販売されていますが、
誤って歯を傷つけてしまうと、そこに食べかすや菌のたまる原因となってしまう恐れがあるため良い手段とはいえません。
また、『歯石』は歯と歯茎の境目だけではなく、歯ぐきに覆われて見えない部分につくこともありますので、セルフケアで完全に取り除くことは実質的に不可能、と言っても差し支えありません。
『歯石』を除去するにはやはり歯科医院に通い、歯周治療の専門家である歯科衛生士に専用の器具を用いて丁寧に取り除いてもらう、ということが最も良い手段となります。
こうしたことで家庭では対処が難しいことが、歯周病を悪化させる要因になってしまうのです。
3つ目は、「歯ではなく、歯ぐきや歯を支える骨(歯そう骨)等を溶かす病気であること」、が原因に挙げられます。
『歯周病』という名前の通り、『歯』の病気ではなく、『歯の周り』の病気なのです。
先程から「自覚症状に乏しい」という点を挙げていましたが、これは「骨を溶かす病気であること」が要因になっています。
歯とは違い『歯そう骨(しそうこつ)』は歯ぐきに覆われているため、見えることはありません。
また、歯そう骨の表面には痛覚などがなく、菌によって侵されていても感じることはほとんどありません。
こうして、痛みが殆どなく、見た目の変化も緩やかであるため、自覚症状に乏しいまま知らない間に症状が進行している、ということが起きているのです。
そして、植物を地面から引っこ抜くには根の周りの土を掘り返すことが効率的なように、歯を支える歯そう骨が溶かされることは、歯にとって重大で深刻なダメージとなっています。
さらに、歯と同様に歯そう骨は再生することがありません。
こうしたことが原因となって『歯周病』は歯を失う最大の原因となっています。
では、この恐ろしい『歯周病』をどうしたら治せるのでしょうか。
実のところ『歯周病』は厳密に言うと完治することがありません。
というのも、先程述べさせていただいたとおり、『歯そう骨』の溶かされた部分は再生することがありません。
そのため、『歯周病の治療』とは、主に『歯石の除去』と『歯を清潔に保つ』といった、2つの処置を行うことでこれ以上症状が進行しないようにする、ということが目的になります。
それでは、増田歯科・矯正歯科で行う具体的な歯周治療の流れを見ていきましょう。
まずは歯周病の進行具合や歯ぐきの状態を確認するために、歯科衛生士が歯と歯ぐきの隙間(歯周ポケット)をプローブという器具で探ります。この処置を『歯周基本検査』といいます。
プローブには目盛りがついており、これを歯周ポケットに探り入れることで溝の深さを確認することができます。
正常な歯ぐきであれば、歯周ポケットはほとんど4mm未満ですが、進行していると5mmを上回ることや炎症がひどい場合にはプローブが触れただけで出血や膿が出てくること(排膿)が起こり得ます。
次に、歯の表面についている歯石の除去を行います。
歯石の除去には、超音波の力で歯石を取り除くことができる『超音波スケーラー』を使用します。
この『超音波スケーラー』で歯石除去を行う処置を『スケーリング』と呼びます。
スケーリングが終われば、再び歯周検査を行います。
この歯周検査では歯の表面の歯石を取り除いたことで、1回目よりも精密な検査を行うことができます。
これを『歯周精密検査』といいます。
そして、歯周精密検査の結果から、歯周ポケット内にある歯石の場所を特定し、除去を行います。
この歯石の除去には超音波スケーラーではなく別の専用の器具を使います。
その器具は『ハンドスケーラー(キュレット)』といい、手作業で丁寧に除去を行います。
この治療を『SRP(スケーリングルートプルーニング)』といいます。
超音波スケーラーではなく、ハンドスケーラーを使う理由ですが歯の表面と違い、指数ポケット内は歯がエナメル質(歯で最も硬い部位)に覆われていないため、かえって歯を傷つけることや刺激で患者様に負担をかけてしまう恐れがあるためです。
そのため、時間のかかる作業となりやすく、状態によっては完全に取り除くまで複数回歯医者に通い続ける必要があることも少なくありません。
最後に『歯周精密検査』を再び行い、歯ぐきの状態が改善されているかを確認します。
これを『再評価』といいます。
『再評価』の結果、問題がなければ、専用の器具を用いて歯の清掃を行います。
こちらは『PMTC(プロフェッショナルメカニカルトゥースクリーニング)』といい、PMTCをもって歯周治療は完了となります。
ただ、歯周治療を終えてからの行動が大事になっていきます。
主に大事なことは2つあり、1つ目は『ホームケア』です。
上でも述べていた通り、『歯石』の原因となるのは歯に付着した食べかすである『歯垢』です。
『歯垢』の段階であれば、
歯ブラシやフロスといったご家庭で利用できるグッズで取り除くことができますので、歯石の付着を予防することができます。
こうした『ホームケア』を行うことで歯周病が進行するリスクを大幅に軽減できます。
そして、2つ目に大事なことが『メンテナンス』です。
自身のお口に合ったグッズを使えているか、歯ブラシやフロスなどの使い方は適切か、など『ホームケア』がしっかりできているか『メンテナンス』で歯医者に通うことで確認ができます。
また、磨きにくい部分に溜まった『歯垢』や『歯石』の除去、食生活の指導、虫歯のチェック、歯周ポケットのチェック、歯の表面の研磨、フッ素の塗布などをメンテナンスで受けることができます。
こうして、『ホームケア』と『メンテナンス』を欠かさず行うことで、はじめて歯周病のリスクを大幅に抑えることができます。
特にこの『メンテナンス』の重要性は他の先進国では一般的に認知されています。
歯科先進国とも呼ばれているスウェーデンでは、定期的にメンテナンスに通う人が人口の90%となっています。
逆に日本は2%とアメリカ80%やイギリス70%と比べても大きく劣る結果となっています。
こうしたメンテナンス意識は歯を残せる本数で顕著に現れていて、80歳での平均残存歯数はスウェーデン20本、アメリカ17本、イギリス15本、となっており日本は8本と非常に少ない数値となっています。
(通常、歯の本数は親知らずを除いて28本あります)
歯を大事にしたい、高齢になっても食事に困りたくない、という方はまずは歯科検診で状態を確認し、定期的なメンテナンスに通われることをぜひおすすめいたします。
医療法人健誠会 増田歯科・矯正歯科
理事長 増田智基